海谷山塊(新潟) 阿彌陀山(1511m) 2019年5月5日  カウント:画像読み出し不能

所要時間 5:07 駐車箇所−−5:27林道を離れる−−6:07 830m峰−−6:34 917.3m三角点峰−−7:52 1270m峰−−8:16 1320m鞍部(休憩) 8:37−−8:58 不動川(標高1200m)−−9:10 尾根取付(標高1280m)−−9:43 阿彌陀山北西尾根−−9:47 阿彌陀山(休憩) 10:12−−10:18 北西尾根を離れる−−10:32 不動川−−10:34 デジカメ捜索 10:58−−11:02 不動川を離れる(標高1200m)−−11:28 1320m鞍部(休憩) 12:09−−12:26 1270m峰−−12:51 917.3m三角点峰−−13:16 829m峰−−13:27 廃林道−−13:47 駐車箇所

場所新潟県糸魚川市
年月日2019年5月5日 日帰り
天候
山行種類残雪期の籔山
交通手段マイカー
駐車場林道路側に駐車余地あり
登山道の有無林道終点から烏帽子岳北側の1320m鞍部までは廃道があるようだがその一部は存在を確認。ネットの記録でも廃道を確認できたが灌木藪に覆われるらしい。阿彌陀山北西尾根上にも廃道あり。林道は途中から廃林道化しているがどこから廃林道化しているかは積雪で不明。
籔の有無藪は残雪に埋もれて全行程の1%以下。かなり楽ができた
危険個所の有無1320m鞍部からの下り及び阿彌陀山北西尾根直下の雪庇直下は雪壁で滑落注意。危険度は雪質に大きく左右されるので時期や時間帯の選択に注意
冬装備ピッケル、12本爪アイゼン。雪壁の通過が複数あり両者が必須。25mのお助けロープを持ったが使わなかった
山頂の展望立木皆無で大展望
GPSトラックログ
(GPX形式)
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コメント2週間前の烏帽子岳の経験を元に谷根集落奥の谷根林道より917.3m三角点峰〜1270m峰〜1320m鞍部〜不動川源流部経由で往復。成功する可能性は50%程度と思っていたので素直にうれしい。2週間前よりかなり積雪が減ったが肝心な個所には雪が残り藪漕ぎはごく僅かで済んだ。ただし不動川源流部から今回利用した枝尾根に登ると最後は雪壁状の急雪面で慎重に登った。本ルートではここが最大難関で雪質によって難易度は大きく変わるだろう。今回は登りは怖かったが下山時は適度に緩んでピッケル、アイゼンとも良く効いて安心できた。なお、帰ってからネットで見た記録ではこの尾根は無雪期は猛烈な灌木藪だそうだが、今回は残雪で藪皆無の快適尾根だった。山頂にはネットで見た石仏あり。低い灌木ばかりで大展望を楽しめる。


西側(糸魚川市大野付近)から見た烏帽子山
北側(1270m峰)から見た烏帽子山


駐車余地 曲がった先は積雪で通行不能
この沢で林道をショートカット 標高580m地点の看板
植林に入ると林道は雪に埋もれる 標高630mで林道を離れて適当に上へ
気温は約+4℃ 標高710m付近
標高760m付近。雪が消えてしまう 標高770m付近。途切れ途切れに残雪あり
標高800m付近。完全に藪に突入 獣道あり
標高810m付近。再び残雪現る 標高820m台地に乗る
830m峰から見た烏帽子岳北方の1350m峰 雪に埋もれた林道
これは廃林道? 840m鞍部から920m峰を見上げる
917.3m三角点肩から見た北の展望
917.3m三角点肩から見た南の展望 標高960m付近の熊の足跡
標高1000m付近の熊の足跡 標高1150m付近から見た往路の尾根
標高1220m肩付近から見た烏帽子岳と阿彌陀山。まだ雪はちゃんと残っていた
1230m峰から東を見ている
標高1250m付近から見た烏帽子岳と阿彌陀山
1270m峰の下りで廃道が出ていた 1270m峰を振り返る
1260m峰から東を見る 1350m峰への登り
1230m鞍部からニゴリ川源流を見下ろす
1350m峰南側。2週間前より雪解け進む 1350m峰を振り返る
1320m鞍部で休憩 1320m鞍部から見た烏帽子岳
鞍部から巻き気味に不動川へ下る 標高1300m付近から見た阿彌陀山
標高1300m付近をトラバース中 標高1180m付近
標高1180m付近から見た阿彌陀山北西尾根東面。各谷はデブリ多数。目の前での崩落もあり
標高1200m付近で不動川に到着 標高1220m付近。右の斜面に取り付く
標高1250m付近 標高1290mで尾根に乗る
右側の谷上部はほぼ垂直の雪壁 尾根が消えた上部の急雪面
標高1390m付近。まだ傾斜は緩い 標高1420m付近。雪壁をまっすぐ登る
雪壁を登ると雪庇残骸に上がる(標高1430m付近) 登ってきた斜面を振り返る
雪庇残骸から斜面に乗り移る 薄い灌木斜面を登る
阿彌陀山北西尾根に出る。廃道あり 阿彌陀山山頂。石仏あり
阿彌陀山からの360度展望写真(クリックで拡大)
阿彌陀山から見た頚城山脈
阿彌陀山から見た後立山
阿彌陀山から見た烏帽子岳 烏帽子岳山頂拡大。2週間で雪が消えた
阿彌陀山南峰へ続く尾根。かなりヤバい 阿彌陀山から見た阿彌陀山南峰
阿彌陀山西尾根。穏やかそうに見えるが 石仏近くの燭台。金属製(青銅?)
阿彌陀山北西尾根の廃道 尾根を離れて雪庇残骸へ
雪庇残骸の列。適当な場所で這い上がる 登ってきた雪壁を見下ろす
往路より北の傾斜が緩い場所を下った 烏帽子岳が高くなっていく
標高1290mで尾根を外れ南へ下る デジカメを落としてザックデポして捜索、無事発見
尾根末端は岩っぽく、今回のルートで登った方がいい 途中でトラバースして1320m鞍部へ
標高1200m付近。意外に藪は薄いかも 標高1200m付近
阿彌陀山北西尾根直下の雪壁 1320m鞍部で休憩
1320m鞍部から北を見ている 帰りも1350m峰を巻いた
1350m峰西斜面から見た1270m峰 1350m峰西斜面で発見した目印
2週間前に歩いた烏帽子岳北尾根 1270m峰直下のイワウチワ
1270m峰から西を見ている 帰りは1270m峰から北西に斜面を下った
標高1000m付近で往路の尾根に合流 標高1000m付近の熊棚。多数あり

熊の木登り跡。ブナの幹は見やすい 910m鞍部から北を見ている
920m峰南斜面には明瞭な道あり 2週間前に歩いたルート。まだ結構残雪あり
917.3m三角点肩から見た北側の展望
829m峰から見た1350m峰
829m峰から北西尾根を下るが出だしは雪無し でも20mくらいで残雪登場
雪を求めて尾根の左右へ 最後は尾根の右側で廃林道に合流
林道に小さな滝ができていた 植林帯の林道。雪で判別困難
往路で見た標識。ここまで来れば雪はほぼ無し 駐車箇所到着


 大型連休直前の週末に海谷山塊烏帽子岳に登ったが、その時は連日の徹夜明けで精神的にもエネルギーに欠けていたためお隣の阿彌陀山は地形図を準備したものの足を延ばさなかったが、残雪の状態を考えると近々やっつけたいと考えていた。大型連休最初の週末は新雪が積もった可能性が高く、ラッセルや急斜面での滑落のしやすさ等を考慮して別の場所に登ったが、そちらでの新雪の積もり方からしておそらくそれが正解だったと思う。大型連休終盤である次の週末は日曜が好天の予報で、翌日は雨の予報で日帰りなら阿彌陀山がちょうどいいと判断した。

 今度もマジな山なので事前にネットで調査。意外なことに烏帽子岳方面から挑戦している人はかなりの少数派で、主流(と言っても10件に満たなかったような)は逆方向の海川側から阿彌陀沢左俣か、阿彌陀沢左俣/右俣中間の尾根を登っている。そしてそのルートでの記録は残雪期/無雪期と半々程度だった。まあ、このルートでは海川の渡渉が必要で、増水した残雪期には適さないので仕方なかろう。スノーブリッジが使えるようだが年により残雪状況が異なり100%使えるわけでもないし、稜線直下のゲジゲジマークが非常に気になる。おまけに南西向きの尾根や斜面なので雪解けが早いことも予想されたため、今回は最初から海川経由は選択肢に入れなかった。なお、ネットの記録を見る限りは阿彌陀山に登るのは多くても年に数パーティー程度らしい。

 ついでに不動川の遡上記録も調べてみたが、滝やゴルジュの連続でかなり険悪な川らしい。普通の沢屋でも遡上不可能なレベルと思えた。ここが普通に歩けるようなら今回のように稜線から不動川を迂回する手間が省けたのだが、沢を遡上するだけで2日くらいかかるとのこと。今回、私が足を踏み入れたのは源流付近だが、数mの雪に埋もれていたので無雪期の谷の様子は不明だ。

 烏帽子岳方面経由の記録では主稜線を縦走した記録はクライミングの領分で私の守備範囲外だし、実際に烏帽子岳から見た感じでは山頂直下の壁は私の実力では通過は無理だろう。もういくつかは阿彌陀山北西尾根の東面の枝尾根から登っている(もしくは途中撤退)。烏帽子岳から見た感じではどの尾根も谷も傾斜がきつく、雪の残り方や雪質で難易度が大きく変わりそうだ。地形図を見た感じでは、標高1000m付近の北西尾根末端から登るのが一番リスクが低そうだが、その場合は不動川へ一度かなり高度を下げて山頂へ登り返し、帰りも不動川からの登り返しがきつい。できるだけ高度を下げない点を考慮すると、阿彌陀山からほぼ真北に延びる枝尾根、つまり烏帽子岳とつながる主稜線の一つ西側の尾根が適当と思われた。ただし2週間前の偵察でこの尾根上部はかなりの急斜面(雪面)で、この雪壁を登る度胸があるかが核心となろう。

 その核心へ至るアプローチであるが、2週間前の烏帽子岳同様に烏帽子岳北尾根を使うのが最もアプローチがいいが、あれから2週間が経過して雪解けが相当進んでいるので、標高が低く傾斜がきつい北尾根下部はかなり藪が出ていると予想される。また、同じルートでは面白みも無いこともあり、今回は谷根集落から延びる林道(谷根林道)を使い、917.3m三角点肩、1270m峰、1350m峰を経由してアプローチすることにした。このメリットは雪が無くても林道で高度を上げられるため藪漕ぎを回避できること。林道は平坦な820m台地まで達していて、この時期は傾斜が緩い場所の方が雪の残り方がいいので、ここまで来ればまだ残雪は十分期待できる。おそらくその先は尾根が細い部分を除いて藪が出ている箇所は無いと思うが、このルート上は広い尾根の場所ばかりなので、ほとんど藪漕ぎの心配は要らないだろう。

 大型連休中だが前日は出勤で、会社を定時で終えて谷根集落へ出発。林道は除雪されていないはずでどこまで入れるか不明だが、少なくとも標高450mの緩斜面くらいまでは入れると予想。周囲にはほとんど雪は無く舗装された狭い林道を上がっていくが、標高600m手前の傾斜がきつい北斜面のトラバース区間で残雪が登場しジ・エンド。駐車可能な場所までバックして仮眠。南寄りの風が強く明日が心配になるが、核心部は山影になるので風除けになって行動に問題は無かろう。風よりも残雪状況の方が問題だ。枝尾根最上部を登ることができるか・・・・

 翌朝は快晴。明るくなると周囲の状況が良く見えるが、とにかく雪が見えない。2週間前と出だしの標高はほとんど変わらないが、残雪状況は全く変わってしまった。これで今回のルート選択は正解だと確信。林道が無ければ出発からしばらく藪漕ぎだっただろう。といいつつも、林道は最初は大きくジグザグるためショートカット。うまい具合に斜面は藪は薄く枯れた草の斜面を登って上の林道へ。次のカーブは杉植林に入り日当たりが悪い影響か豊富な残雪でショートカット。それ以降は雪に埋もれて林道はほとんど判別不能なほどで、もう植林の中ならどこを登っても藪は無かろうと適当なところで上を目指す。このまま820m台地まで植林が続くのかと思ったら標高700mで植林が終わってブナの自然林へ。明らかに残雪が減り、傾斜がきつくなった標高730mでとうとう雪が無くなり灌木斜面をよじ登り尾根に出るが、やはり雪は少なく断続的に灌木藪に出たり残雪を拾ったりしつつ進んでいく。標高770〜800m間は残雪が続いたが、その先は痩せ尾根で完全に雪が落ちて灌木藪。しかし尾根直上より僅かに西側に獣道らしい道筋が登場。笹の断面を見るときれいな水平なものがあり、僅かながら人も入っているようだ。

 標高810mを越えるとやっと残雪が現れて藪から解放され、820m台地に乗ると杉植林に変わり傾斜が緩んで豊富な残雪に一面が覆われる。830m峰は林道が通っているはずであるが積雪で全く判別できず、800m鞍部付近のみ林道がかろうじて判別可能だった。植林は平坦な地形が続く850m峰まで続く。

 840m鞍部で植林からブナの自然林に切り替わり、以降はずっとブナ林が続くが高密度ではなく、ブナの間隔が広く明るい尾根の連続だ。917.3m三角点肩への登りは傾斜があるので雪が消えて藪が出ていないか心配だったが、ここまで標高が上がるとこのエリアでは残雪は豊富で藪は皆無で快適に高度を上げる。ちなみに私の経験では、妙高火打北側エリアは同じ標高なら国内で最も雪解けが遅い場所で(北海道は不明だが)、この時期でこの標高でこれだけ残雪があるのはこのエリアだけだと思う。

 917.3m三角点肩に上がれば傾斜が緩み、以降はしばらくなだらかな尾根を進む。肩や920m峰からは烏帽子岳北側の1350m峰は見えるが、烏帽子岳や阿彌陀山は1270m峰に邪魔されて姿は見えない。しかし1350m峰まではずっと雪が続いて藪は無さそうで一安心。心配していた風はほとんど無く日差しが強く暑いくらいで、おそらく今シーズン初めて半袖のみで歩く。顔には日焼け止めを塗り頭には毛糸の帽子ではなく麦わら帽子。先週の高幡山の登りで新品の麦わら帽子を藪に引っ掛けて紛失してしまったため買いなおしたものだ。この日は麦わら帽子が大活躍する天候がずっと続き、毛糸の帽子が活躍したのは出発時だけだった。防寒装備はダウンジャケットを持ったが、これも出発して10分程度しか使うことは無かった。季節は確実に進んで初夏に向かっている。そういえば先週に夏の渡り鳥であるツツドリの声を今年初めて聞いたなぁ。

 標高950m付近では昨日のものと思われる熊の足跡を発見。雪解けで輪郭が不明瞭で最初はカモシカなのか熊なのか判別できなかったが、やがて5本指の跡が見えるようになって熊だと分かった。この足跡は尾根上に続き標高1000m付近まで尾根直上を進んでいた(正確には下り方向だった)。熊でも締まった雪には足を取られることがあるようで、明らかに滑ったと思われる延びた足跡があった。下りだし「5本爪」アイゼンでは効きが弱いのだろう。

 熊の足跡が消えてまっさらな雪面を緩やかに登り続ける。この付近の尾根幅は広くどこが尾根中心なのか不明瞭だが、適当に登っても大丈夫でもある。尾根全体が薄いブナ林に覆われて比較的展望がいい。前方のずいぶん高く見えるピークが1270m峰で、その左のなだらかなピークが烏帽子岳北側の1350m峰で、あの根元に達すれば2週間前のルートに合流することになる。ここから見る烏帽子岳北尾根はまだ残雪が多く、960mm肩より上部は西斜面なら雪を伝うことが可能。960m肩以下は雪解けが進んではいるがまだ白い部分が多く、半分以上は雪の上を歩けそうな雰囲気。これならあちらから登った方がお得だったかもしれない。ただしこちらからは北尾根の陰になる東斜面の残雪状況は不明である。

 少し傾斜が出て1220m肩に出るとやっと南側の展望が開けて阿弥陀山が姿を現す。2週間前よりも雪解けが進んでいるが、それでも十分な雪が残っている。問題は計画した枝尾根上部の雪面だが、まだ雪は落ちていないので藪漕ぎは無いが、相変わらず急斜面に見える。雪面に亀裂は見えないので雪崩の心配はなさそうだが、ここを登る度胸があるかは現場に行って見上げてみないと分からない。阿弥陀山北西尾根は雪が落ちて潅木籔だろう。ただし山頂直下まで雪が続くので藪漕ぎ距離は短いだろう。

 肩から1270m峰までは北側が切れ落ちた大きな雪庇を歩く。まだこれだけの雪庇が残っているのだからなかなかの豪雪地帯だ。1270m峰の東側は僅かに雪が切れて潅木に覆われた尾根が出ていたが、明らかに潅木が薄い道のようなものが顔を出していた。これがおそらく廃道化した烏帽子岳登山道だろう。ここでは道型は比較的しっかりと残っていて、無雪期登山でも大きな助けになりそうな存在だった。ネット検索で出てきた無雪期の記録を読んだことがあるが、10年くらい前には既に廃道化していたようで、特に烏帽子岳直下は藪に覆われて完全に道は消えていたとのこと。今はそれから10年経過しているのでもっと籔の進出が進んでいるだろうが、全くの藪よりはたぶんマシだろう。でも今のような残雪期は藪の問題が無いのが大きなメリットだ。

 次の1260m峰の東側下りでも廃道が露出、古いピンクリボンが落ちていた。古いといってもたぶん数年経過した程度で色はしっかりしていた。籔の出ている距離は10m程度ですぐに雪に乗り、そのまま1350m峰へと登っていくが、前回同様ピークには登らずに西側を巻くことに。2週間前の私の足跡やカモシカ?の足跡は完全に消えていたが、たぶんあの時の新雪部分は融けてしまったのだろう。気温は上昇し、この時間は日当たりの無い西側斜面でもアイゼン無しのキックステップだけで十分であった。クソ重い12本爪アイゼンが足に無いと軽くていい。背中は重いが・・・

 前回よりトラバースした位置が高かったようで、1320m鞍部よりも上部で尾根に出てしまい、そこは雪が割れて潅木藪が出ていた。再び西側を巻いて1320m鞍部に到着、既に出発から3時間が経過しているので休憩。今日は日差しがあり風も弱く、薄手の長袖でも十分に暖かかった。前回は鞍部は一面の残雪に覆われていたが、今日は尾根上の雪庇は東にずり落ちかけて尾根の潅木藪が顔を出していた。この先、烏帽子岳に向けて急斜面が続くが、雪解けのため斜面は大きく籔が出ていて、今なら滑落の危険無く山頂に立てそうだ。ただしどの程度藪がきついのかはここからは分からない。

 休憩中にはあちこちから雪崩の轟音が聞こえていた。目の前の阿弥陀山北西尾根東面の谷でも大規模な雪崩が発生し、でかい雪の固まりが急な谷を転げ落ちるのが見えた。さすがにこれから向かう場所でこの光景を見るとビビらないわけにはいかない。滑落の危険性を考えて目的の尾根上ではなく一つ西側の広い谷を登ろうかとも考えていたが、この光景を見て止めておいた。その谷にも落ちたデブリが転がっているのだから、これから気温が上昇する時間帯に突っ込むのは無謀だろう。問題は不動川にまで達するデブリ崩壊があるのかどうか。不動川は歩かないわけにはいかない。

 休憩を終えて12本爪アイゼンを装着して不動川源流部へと降下を開始。地形図ではこの鞍部付近から下るのが一番傾斜が緩そうなのであった。ただしまっすぐ下ってしまうとかなり高度を落としてしまい、目的の尾根取り付きまで登り返す必要があるので、適当に左にトラバースしながらの下りだ。傾斜がきつい場所はトラバースが危険なのでバックでまっすぐ下っていき、安全な傾斜になって再び左へトラバース。左手斜面は場所によっては岩場なので通過可能そうな根曲がりブナが生えた場所を目指す。ブナ樹林の中は地面が出ている場所が多いが意外に籔は薄く、ここのトラバースは無雪期でも楽にできるのかもしれない。ただし、それはブナが生えたエリアだけで、ブナの無い今は広大な雪原の斜面の状態は不明だ。

 最後はやや傾斜のきつい雪面をトラバースして不動川へ降り立つ。今は完全に流れは雪の下で相当分厚い雪に覆われている。傾斜は緩やかで幅も広く、かなり安心して歩けそうな谷だった。おまけに雪面は荒れておらずデブリの形跡は皆無。両側は切り立った急斜面でいつブロック雪崩が落ちてきても不思議ではないが、この様子からすると谷の中心部yまで達することはないのだろうか。

 不動川に出てすぐが目的の尾根の末端だが、岩っぽくてイヤらしい斜面。ここから取り付くよりも不動川を溯ってもっと上流側から尾根東斜面に取り付いた方が安全と判断し、そのまま谷を進んだ。このまま不動川を詰めて山頂に至れればいいのだが、残念ながら山頂直下は急斜面&雪がズタズタに割れて今にも落ちそうな危険な状況。やはり最後は目的の枝尾根から登るしか手は無さそうだ。烏帽子岳と阿彌陀山を結ぶ主稜線の1340m鞍部はここから見る限りは穏やかそうで、もしかしたら反対側にも安全地帯があって上がってこられる場所があるかもしれない。

 右手の枝尾根に取り付くのにいい場所がないか探しながら歩いていたところ、標高1290m付近で傾斜が緩んで登れそうなルートを発見。ずっと雪が繋がり藪は皆無だ。上部には雪庇が見えていてその直下だけは急雪面だが、距離が短いので大丈夫だろう。この時間帯は東斜面に強い日差しが当たるため雪は適度に緩んで安心して登ることができた。ここは締まっていたらピッケルやアイゼンの刺さりが浅く、緊張する場面だろう。

 雪庇直下の雪壁を登って標高1340m地点で尾根に出ると籔は皆無で、穏やかな尾根が続いていた。この点は地形図から読めるので予想通りだが、問題は北西尾根直下の雪の急斜面。烏帽子岳から見るよりは傾斜は緩く感じるが、それでも上部はかなりの傾斜。立ち木皆無の広い雪面で支点は無いから滑落に十分注意する必要がある。まあ、私の力量で登れそうかは直下まで行かないと分からない。

 なだらかで危険を感じない尾根を登っていく。ネットで見た記録ではこの尾根は無雪期は猛烈は潅木藪で足が地面に付かないほどだというが、今はその濃い藪は完全に雪に埋もれてかけらも見えない。ここが残雪期の最大のメリットだ。左手の不動川本流は雪がズタズタに割れる個所まではなだらかな傾斜が続くが、あのブロックはいつ落ちてきても不思議ではないほど不安定に見えるのであまり接近するのは危険だ。右手の谷も途中までは比較的穏やかそうだが、最後の詰めは垂直に近い雪壁で、おまけに雪面に亀裂が入って危なっかしい。結局はどちらの谷も最後まで詰めて尾根に出るのは少なくとも残雪期は無理で、私が今いる枝尾根に逃げるしかない。もちろん、北西尾根でもっと標高が低い位置で合流する枝尾根や谷なら危険性が低い場所があるかもしれないが、不動川をもっと下流まで下る必要があるので体力的な無駄が大きくなる。

 標高1380mで尾根が斜面に吸い込まれる直前で短いナイフリッジが登場するが、ここは特に左側なら落ちても止まれそうな感触なのでそれほど心配せずに通過。その先で尾根形状は無くなり一面の斜面に変わり、ここからが今回の核心部だ。出だしの傾斜は緩やかで問題なさそうだが、最上部は雪庇の残骸らしく雪壁状。10年前の私ならビビって撤退したかもしれないが、あちこちで経験を積んだおかげで精神的な限界点が上昇したようで、今ならピッケル+出っ歯の重い12本爪アイゼンなら登れない傾斜ではないと見た。傾斜は2週間前の烏帽子岳と同じ程度だろうが、距離はこちらの方が長い。

 日が当たって出出しの雪質は適度、ピッケルもアイゼンも良く刺さる。最初はジグザグを切って登るが、本格的に傾斜が出てからは直線的に登るしかない。イヤらしいことに傾斜がきつくなってから雪質が硬くなり、ピッケルが5cm程度しか刺さらなくなり、何度か繰り返し打ち込んで体重が支えられる程度まで刺さってから進んでいくので時間がかかる。しかしここで滑れば止まらないので慎重さは必要だ。立ち木が無いので掴まる場所も無い。振り返りたくない場所で、先だけ見てよじ登り続ける。

 最後の急傾斜を越えて雪庇上段へ到着! やっと核心部をクリアできた。たぶんこの先は危険個所は無いと思う。雪庇は尾根直上から東斜面をズリ落ちた格好で、尾根までの間には潅木斜面が露出しているし、斜面に降りるにも2mくらいの垂直の雪壁の連続で簡単には下れない。しかし小規模に崩れた個所もありそこから斜面へ下る。長期間雪庇に押しつぶされるためか、尾根東直下の潅木藪は薄く、大部分が木の無い地面だった。濡れた土のように見えたが実際には岩盤らしく、アイゼンでは逆に摩擦が利きにくかった。しかしここなら滑っても雪庇の壁で確実に止まるので恐怖感は感じない。ただし衣類は泥だらけになりそうだが。

 北西尾根直下が潅木が一番濃く、隙間に頭を突っ込んでどうにか通り抜けると、尾根直上の潅木の隙間には踏跡といっていいような比較的明瞭な筋があった。おそらく烏帽子岳同様に昔は道があったのかもしれない。ただしどこに続くのかは不明で、このまま北西尾根を下って不動川に出るのか、それともどこか枝尾根や谷で不動川に下るのか。この感じでは無雪期なら廃道を辿れそうな気がした。

 廃道があるとは言え、今は細い多数の潅木がはみ出して歩きにくい。でも道が皆無の藪の中よりは格段に歩きやすい。山頂まで大した距離はなく、最後に低い潅木を突き抜けて開けると待望の阿弥陀山山頂に到着した。ネットの写真で見たとおり、1体の石仏が鎮座していた。ということは昔は信仰登山で登られていたということか。石仏の近くにはいくつもの燭台あり。石仏と同年代のものだろうか? 山頂には背の高い木は皆無で360度の大展望。烏帽子岳はやや低い位置に見えている。既に山頂には雪はなく籔が出ている。南には阿弥陀山南峰が見えていて、そこに至る稜線は完全に岩屋さんの世界。一方、西へ伸びる尾根は穏やかそうに見える。阿弥陀沢はここからは見えないが、どの程度雪が残っているだろうか。東〜南には大毛無山、不動山、容雅山、火打山、焼山、金山、雨飾山、それに海川を挟んだ対岸の鋸岳〜駒ヶ岳の稜線が見えている。昼闇山北斜面はまだ真っ白で十分にスキーができそうだ。その隣の鉢山も登りたい山の一つだが、今年はもう遅いかなぁ。西には後立山がずらりと並んでいた。

 風除け皆無の山頂であるが、今日はほぼ無風で山頂で休憩しても支障は無かった。日差しがたっぷりで心地いい! 帰りの雪壁の下りを考えるともう少し雪が緩んだ方が安全性が高まるので、のんびりと休憩。これだけ日差しがあると、滑落よりも雪崩に巻き込まれるリスクの方が高いかもしれない。

 名残惜しい山頂を後にして下山開始。いきなり西尾根に引き込まれないよう注意。こちらの尾根にも何となく踏跡あり。雪庇の壁が見えてきたら潅木をかいくぐって尾根を離れて雪庇の上に這い上がり、問題の急雪面へ。往路をそのまま下ってもいいのだが、雪庇をもう少し先まで行けばもっと傾斜が緩い個所があるかもしれないと考えて往路の足跡を越えてさらに下り、雪庇が割れて藪が出た個所から下った。こちらはバックするほどの傾斜は無かった。ただし、そのまま下ると亀裂だらけの危険地帯に入ってしまうので右に逃げて往路に合流、そこからは少しだけバックで下って安全地帯に着地した。往路よりも雪の状態が緩んでアイゼン、ピッケルとも深く刺さったので、往路よりも安心感があった。

 ここを通過すれば雪崩以外の心配はないのでのんびりと下ったが予想外のアクシデントが発生。不動川に下ってからデジカメ紛失が発覚したのだ。最後に写真撮影をしたのは標高1340m地点で枝尾根から外れて雪の急斜面を下る直前で、その後、不動川に下った直後にデジカメを入れたウェストポーチの中に収納していた防寒装備類をザックに移したことがあり、そこでポーチのジッパーを閉め忘れたために振動で落ちた可能性が高いと予想した。不動川内で落ちたのなら傾斜が緩くデジカメが滑り落ちる心配は無いが、尾根上で落とした場合はヤバい。

 ザックとピッケルをデポして空身で自分の足跡をトレース。デジカメは黒なので雪面に落ちていれば確実に分かるはず。幸い、谷や斜面に積もった雪は汚れや異物が少ないのでデジカメ探しには最適だ。荷物の入れ替えをした場所ははっきりとは覚えていたいが不動川だったことだけは間違いなく、不動川でデジカメが見つからなかった場合はかなりマズいことになる。

 目を皿のようにして雪面を見ながら遡上していくが、落ち葉や枯れ枝はあってもデジカメは見当たらない。とうとう不動川から尾根への取り付きまで来たが発見できず、再び雪の急斜面を登る羽目に。もしこの斜面でデジカメを落としたとしたら、途中の潅木に引っかかっていなければ不動川に滑り落ちているだろう。雪庇直下の壁を登って尾根上に出てもデジカメは発見できず、ナイフリッジ手前まで登り返しても見当たらなかった。デジカメ本体は塗装も剥がれズームレバーの利きが悪かったり、この前は電源を入れたら何やらエラーが出て起動せず、何度か電源ON/OFFしてやっと生き返ったという、もう購入価格分は働いて寿命ぎりぎりの状態なので紛失しても諦めはつくが、問題はメモリーカードの中身だ。本日撮影した阿弥陀山の記録はおそらく残雪期としては初めてのルートで、後に続く少数の物好き連中には貴重な参考例となろう。作文で記録をまとめたとしても、具体的画像が無いと残雪の状況等は正確には伝えられない。何がなんでも探し出したいが、ここまで来て見当たらないとすると、雪の急斜面を滑り落ちていったとしか考えられない。

 そこで一度不動川へと下り、そのまま上流方面へ歩いてみた。雪庇直下の急斜面で落とした場合、この付近に滑り落ちるだろうと思ったからだが、残念ながらここにもデジカメは見当たらなかった。これ以上は探す場所はないためがっかりしつつも往路で見落としがあったかもしれないと、帰りも雪面に注意して下っていったところ、ザックをデポした場所から1分もかからない場所でデジカメを発見! 雪に埋もれたわけでもなく全体が雪面上に出ていて、これだけ目立つのにどうして登りで発見できなかったのか不思議でならない。それこそキツネに化かされたような。まあ、デジカメの中身さえ無事戻ってきてくれたので文句はないが。

 往路の足跡を辿って不動川を離れて烏帽子岳北尾根に登り返し、往路と同じく1320m鞍部で休憩。もうここまでくればアイゼンの出番は無いので休憩しながら虫干ししてザックの中へ。軽く飯を食ってザックの上にひっくり返っての休憩は、日差しもあって快適だった。

 帰りも往路とほぼ同じルートで戻ったが、1270m峰からの下りは尾根を正確に辿らずにピークから北西斜面をショートカット。斜面はほとんど立ち木はなく往路の尾根に繋がっているのであった。こんな場所はスキーがあればあっという間なのだろうが。往路で熊の足跡があったが帰りがけに熊棚を多数確認。この界隈はすべてブナであり、ブナの幹は表面が滑らかで熊の爪痕がはっきりと残るため、痕跡が見やすかった。これがミズナラやコナラだと幹の表面がデコボコで爪痕の判別が困難である。行きも帰りも熊出没の可能性は最初から分かっていたので、熊除けの鈴は付けたままだ。

 往路で使った尾根は820m台地まで雪が落ちて藪が出ていたので帰りは使うのを止めて、829m峰の北西尾根を使うことにした。雪が残っているのか不明だが、尾根の北側は残っている可能性があるだろう。藪を確実に回避するために林道を辿ってもいいが、遠回りになるので止めておく。それに台地では林道の判別がほぼ不能の残雪状況で、斜面をトラバースするような林道を正確に追える自信も無かった。

 829m峰北西尾根の出だしはいきなり雪が無い! 山頂までは植林でたっぷりの雪があったが、山頂の北側はブナの自然林であった。ただし潅木藪はほぼ無しで、この植生が続くのなら雪が無くても問題はないだろう。50mほど下ると残雪が現れ、そのまま下っていくが尾根地形ではなく二重山稜のような谷地形に変化し、やがて谷は左に逃げていった。ここで雪が消えた右手の尾根に上がると杉植林に変わるが、尾根上は雪は無く東斜面の残雪を拾って下っていく。下方には既に林道が見えているが、どうも草に覆われた廃林道らしい。

 最後は細い沢を覆う雪の上を歩いて廃林道へ出た。沢はもろに林道を横断し、深さも幅も1mくらいあった。昔は暗渠か何かで水をバイパスしていたのかもしれないが、今は林道を分断している。その先でも路面上を沢が流れて路肩に小さな滝を形成する場所もあり、廃林道化してからかなりの年月が経過していると思われた。820m台地の雪に埋もれた林道も廃林道なのだろう。

 植林帯に入ると積雪が急に増えて廃林道は雪の下へ隠れ、どこに林道があるのか判別困難に。慣れた人なら杉の間隔で林道の位置が推測できるだろうが、慣れない人だとそれは無理だろう。林道が直線的なら分かりやすいが、この付近は曲がっていて分かり難い。私でもほとんど勘が頼りだった。それでも正確に林道をトレースし、往路で林道を離れた自分の足跡に合流。気温が上がって雪が解け足跡の輪郭はぼけて、ただの雪の窪みと見分けが付きにくくなっていた。よって往路の足跡よりも木の間隔が林道判別の指標になった。

 植林帯を抜ければ雪も消えて歩きやすくなる。眼下にマイカーが見えており、往路と同じ斜面をショートカットして車に戻り、林道を横断する沢で顔を洗い、全身の汗を拭いてさっぱり。周囲に雪が無いと暑いくらいの気温で、これでは急激に雪解けが進むだろう。今シーズンも残雪が使える山はもう標高が高い場所しか無くなってしまう。もう残雪の山は諦めて、虫が出る前に道が無い普通の山に切り替えようかな。


まとめ
 今回のルートは残雪期の阿弥陀山に登るには最適解に近いと思われる。アプローチには2週間前の烏帽子岳北尾根を使うのが最短距離だが、雪解けの状況によっては藪漕ぎが必要となるだろう。あまり雪が多い状態だと、阿弥陀山北西尾根直下の雪壁が厳しくなるし、雪が少ないとアプローチが藪に阻まれきつくなる。今回は偶然にも両者のバランスが良く、比較的楽に山頂に立つことができた。私にとっては大型連休ではなかったが、登った山は小粒でも大型だった。

 

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